アトピー性皮膚炎

2025.10.24

慢性的にかゆみや湿疹などの症状を繰り返すアトピー性皮膚炎について詳しく解説します

アトピー性皮膚炎は体質や環境など様々な要因が重なることで、慢性的にかゆみや湿疹などの症状を繰り返す病気です。このページでは、アトピー性皮膚炎の原因や治療法・薬などについて解説します。

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は、日本皮膚科学会が作成した「アトピー性皮膚炎の定義・診断基準」において、「増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因をもつ」と定義されています。

皮膚のバリア機能が低下しているため、外部刺激に対して過敏になり、かゆみや湿疹を引き起こします。

つまり、「アトピー素因を持ち、かゆみのある湿疹良くなったり悪くなったりを繰り返す」ことがアトピー性皮膚炎の特徴と言えます。

アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎の原因は複数あり、遺伝的要因と環境要因が組み合わされることで発症すると考えられています。

  • 遺伝的要因
    家族にアレルギー疾患(喘息、花粉症、食物アレルギーなど)があると発症リスクが高まります。
  • 皮膚バリア機能の低下
    皮膚が乾燥しやすくなり外部の刺激やアレルゲンが侵入しやすくなります。
  • 免疫異常
    体の免疫システムが過剰に反応し、炎症を引き起こしやすくなります。
  • 環境要因
    ハウスダスト、ダニ、花粉、ストレス、食生活の乱れなどが悪化要因となることがあります。
アトピー性皮膚炎の原因について図解でわかりやすく紹介します

アトピー性皮膚炎になりやすい人

アトピー性皮膚炎は「アトピー素因」と呼ばれるアレルギーになりやすい体質的な要因を持つ人がなりやすいとされています。

そのほかにも乾燥肌の人、季節の変化やストレスに敏感な人もアトピー性皮膚炎を発症しやすい傾向にあります。

アトピー素因とは?

  • 本人、または家族がアレルギー性の病気(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎)を持っている
  • IgE抗体(身体のなかに入ってきたアレルギーの原因物質(アレルゲン)に対して働きかけ、身体を守る機能を持つ抗体)を作りやすい体質を持っている

アトピー性皮膚炎の症状と診断基準

かゆみがある特徴的な皮疹と分布がみられる慢性的に繰り返して皮疹が起こることの3つが、日本皮膚科学会で設けられたアレルギー性皮膚炎の診断基準です。(2歳未満の乳児で2ヶ月以上、その他年齢では6ヶ月以上皮疹を繰り返す場合、慢性的であると言えます。)

アトピー性皮膚炎の主な症状は以下の通りです

  • かゆみ 
    慢性的に続く強いかゆみ
  • 湿疹
    赤み、かさぶた、ジュクジュクした皮疹が繰り返し現れる
  • 皮膚乾燥
    皮膚がカサカサし、ひび割れしやすくなる
  • 左右対称性の症状
    肘の内側や膝の裏、首、顔などに左右対称に湿疹が出ることが多い

日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診断基準

子どものアトピー性皮膚炎の特徴

子どものアトピー性皮膚炎は、乳児期(2歳未満)に頭・顔に乾燥や紅斑(肌が赤みを帯びる)・丘疹(腫れが目立つ湿疹)・痂皮(かさぶた)が生じ、幼児期にかけて徐々に体や下肢に症状が広がっていくなどの症状が見られます。

小児期には皮膚全体が乾燥してゴワゴワし(苔癬化<たいせんか>)、首やひじの内側やひざの裏側などの関節部分、手首・足首などに症状が見られるようになります。

強いかゆみがあり、夜間のかきむしりなどで悪化しやすい傾向にあります。

※お子さんの場合、成長と共に症状が軽快していくケースも多くみられます。

大人のアトピー性皮膚炎の特徴

大人のアトピー性皮膚炎は、症状は基本的に小児期と同様ですが、皮疹の出方が異なります。

思春期・成人期になってアトピー性皮膚炎を発症した場合、顔や首のまわり、胸・背中などの上半身に皮疹が多くみられるようになります。

皮膚が厚くなりゴワゴワした質感になることが多く、また、ストレスや生活習慣の影響を受けやすいと言われています。

当院におけるアトピー性皮膚炎治療

当院ではまず最初に、アレルギー検査やパッチテストなどを用いた原因特定検査を行います。その後、外用療法、光線療法、飲み薬、注射薬などの様々な治療を組み合わせ、患者様ひとりひとりに合わせた治療を行います。

薬物療法

外用薬

  • ステロイド外用薬
    炎症を抑える効果が強く、症状の重症度に応じた強さの薬を使用します。即効性があり、急性の症状に特に有効です。
  • タクロリムス(プロトピック)
    ステロイドではない免疫抑制薬(カルシニューリン阻害薬)で、炎症を抑える効果があります。長期使用時の副作用が少なく、特に顔や首など、皮膚が薄い部位にも使用しやすいのが特徴です。
  • デルゴシチニブ(モイゼルト)
    JAK阻害薬で、炎症に関わる複数のサイトカインのシグナル伝達をブロックします。生後6か月以上の小児から使用でき、顔や敏感な部位にも使いやすい非ステロイド薬です。
  • ジファミラスト(コレクチム)
    PDE4(ホスホジエステラーゼ4)阻害薬で、炎症を引き起こす物質の産生を抑える作用があります。皮膚の赤みやかゆみの軽減にも効果があり、軽〜中等症の患者さんに使われることが多い薬です。
  • タプロチニブ(ブイタマー)
    AHR(芳香族炭化水素受容体)モジュレーターという新しいタイプの非ステロイド外用薬です。炎症を抑えると同時に皮膚のバリア機能を改善する作用があり、副作用が少なく長期使用が可能とされています。現在日本では未承認です。

内服薬

  • 抗ヒスタミン薬
    かゆみを抑える目的で使用されます。
    • ルパフィン(ルパタジン)
    • ビラノア(ビラスチン)
    • アレグラ(フェキソフェナジン)
    • アレロック(オロパタジン)
    • アレジオン(エピナスチン)
    • クラリチン(ロラタジン)
    • エバステル(エバスチン)
    • ザイザル(レボセチリジン)
    • ジルテック(セチリジン)
    • ポララミン(d-クロルフェニラミン)
    • デザレックス(デスロラタジン)
  • JAK阻害薬(リンヴォック)
    炎症を引き起こすシグナルをブロックすることで、かゆみや炎症を抑えます。
    当院は乾癬分子標的薬使用承認施設であり、JAK阻害薬の処方が可能です。

注射薬

  • デュピルマブ(デュピクセント)
    IL-4およびIL-13のシグナルを抑えることで、炎症を抑える生物学的製剤です。
    中等度~重度のアトピー性皮膚炎に対して使用されます。

ステロイドについて
ステロイドは炎症、赤み、かゆみを抑える際に必要なお薬です。ステロイドの副作用として、皮膚が薄くなってくる、毛細血管拡張といって少し赤みを帯びてくる、ニキビやおできができやくすくなるなどが挙げられます。

デュピクセントについて
デュピクセントは、炎症を引き起こす仕組みを根本からブロックするお薬です。

JAK阻害薬について
JAK阻害薬は比較的新しいお薬で、2013年に登場しました。
JAK阻害薬はその名のとおり、免疫をつかさどる細胞の中にある「JAK」という部分に結合して、かゆみの原因となる炎症性サイトカインが過剰に作り出されることを防ぐお薬です。
薬物療法の基本はステロイド外用薬による局所療法となりますが、従来治療でコントロール不良であった場合は、JAK阻害薬での治療が追加されます。

※JAK阻害薬による治療では、医療費が高額になることがあります。患者さんの負担を軽減するため、医療費を助成する様々な制度(医療保険、高額療養費制度、医療費控除等)がありますので、詳細は各制度の窓口にお問合せください。

光線療法

光線療法は特定の紫外線を皮膚に照射することで炎症とかゆみを抑え、症状を緩和させます。薬物療法だけではコントロールが難しい場合に使用します。当院ではナローバンドUVBとエキシマライト療法を行っています。

ナローバンドUVB

紫外線B波のなかでも311~313㎚の波長に絞って照射します。
皮膚の免疫反応を抑え、炎症を鎮める作用があります。副作用が比較的少なく、安全性が高い治療です。
週2~3回の照射が推奨され、症状改善に伴い徐々に頻度を減らしていきます。

エキシマライト

308㎚の波長を使用します。
1回の照射時間が短く、短時間で治療を終えることが可能です。また小範囲の皮疹に的を絞って照射することができます。
治療回数はナローバンドUVBと同程度になります。

アトピー性皮膚炎の治療に使用されるナローバンドUVB、エキシマライト機材の写真

スキンケア

アトピー性皮膚炎の改善にはスキンケアも重要です。日頃から皮膚を清潔に保つ、保湿するなどを心がけましょう。

また、熱すぎるお風呂に入ると熱で症状が悪化することもありますので、38~40℃での入浴ををおすすめします。

よくあるご質問

アトピー性皮膚炎は治りますか?

適切な治療を行うことで、症状を改善することができます。外用薬、内服薬、注射、光線療法など、アトピー性皮膚炎には様々な治療法が存在します。症状によってどの治療法が合うか個人差はありますが、諦めず根気強く治療を続ければ症状は改善しますので、ぜひご相談ください。

どのタイミングで受診すれば良いの?

皮膚の乾燥・赤みが気になったタイミングで受診してください。かゆみが気になってご自身でかきむしってしまうと症状が悪化することがありますので、早めのタイミングでの受診をおすすめします。

ステロイドを使わない治療はありますか?

はい、ステロイドを用いない治療もございます。外用薬では、免疫抑制外用薬、JAK阻害外用薬などのお薬がございます。ステロイドの副作用が気になる方でも、これらのお薬やその他内服薬・注射・光線療法で治療を行うことができます。

日常生活で気を付けることはありますか?

アトピー性皮膚炎の肌は乾燥しやすい状態です。かゆみの発生には皮膚に入り込んだアレルゲンが原因となります。適切なスキンケアを行い、肌を清潔な状態に保ち、保湿を心がけましょう。洗いすぎなど過度なスキンケアは乾燥を促進してしまうこともありますので、注意が必要です。

おわりに

当院院長はアトピー性皮膚炎と皮膚バリアを研究テーマとし、症状や治療についての理解を深めてきました。アトピーは根気強く治療を続ければ軽快が望める疾患ですので、どうぞお気軽にご相談ください。

院長紹介

院長:山賀 康右 (やまが こうすけ)

山賀 康右
  • 資格
    • 日本専門医機構認定 皮膚科専門医
    • 医学博士
    • 難病指定医
  • 受賞歴
    • 海外特別研究員(日本学術振興会)
    • 日本人派遣留学プログラム奨学生(吉田育英会)
    • SID/JSID Young Fellow Collegiality Awards
  • 所属学会
    • 日本皮膚科学会
    • 日本アレルギー学会
  • 趣味
    • 子育て、2児のパパ
    • M-1グランプリ2回戦進出

略歴

2011 京都府立医科大学 医学部医学科卒業
2013 大阪大学医学部附属病院 初期臨床研修修了
2013 ~ 2017 大阪大学皮膚科に入局
大阪大学医学部附属病院で皮膚科医として勤務
2017 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医取得
2018 大阪大学大学院医学系研究科卒業、医学博士
2017 ~ 2020 カリフォルニア大学アーバイン校 Postdoctoral Fellow
日米通じて、湿疹、アトピー性皮膚炎、発汗異常、脱毛症、皮膚や毛包の再生・幹細胞の研究に従事
2020 都内クリニック勤務
2023 井土ヶ谷駅前やまが皮膚科開院

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